配偶者に住む家を残したい! 「配偶者居住権」とは

自分の死後も、妻(または夫)には、安心して自宅に住み続けてほしいものです。しかし、配偶者が自宅を相続しても、他の相続人が預貯金などの財産を相続したことで、生活費の支払いに困り、結局は自宅を手放さなければならないというケースがあります。

そういった問題を解決するために新設されるのが「配偶者居住権」です。

 

配偶者居住権には、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」という2種類の制度が新設されますが、今回は「配偶者居住権」にしぼって解説します。

配偶者に起こる相続リスク

現行民法(2019年11月現在)の場合、法定相続分どおりに遺産を分けたときに、配偶者が自宅を相続すると、預貯金などの多くを他の相続人が相続することになります。

その為、配偶者は住む家はあっても今後の生活費が不足するようなケースが起こることがあります。

 

例えば、相続人が妻B及び子C、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)とします。

妻Bと子Cの法定相続分は1:1なので、不動産を妻Bに相続させた場合は、法定相続分どおりに遺産を分けた場合は次のような分け方になります。

 

妻B:自宅2000万円+預貯金500万円
子C:預貯金2500万円

 

妻Bは自宅を相続したため、500万円分の預貯金しか相続できないことになります。

年金等の収入があっても、現役で仕事をしていなければ、年齢によっては今後の生活が心配です。

 

子Cが母親の面倒を見れば良いと考えられる方もいるかもしれませんが、親子間がドライな場合や、夫に離婚歴があり、妻Bが後妻で子Cが前妻との間の子の場合などでは、そういった期待が出来ないことも考えられます。

 

妻Bが自宅へ居住し続けられて、生活費も多く相続することはできないのでしょうか。

所有権を居住権と負担付所有権の二つの権利に分ける

2020年4月1日に施行される配偶者居住権を使えば上記の問題を解決することができます。

 

例えば、先ほどの事例に配偶者居住権を採用すると、次のようになります。

 

妻B:自宅(配偶者居住権)1000万円+預貯金1500万円
子C:自宅(負担付き所有権)1000万円+預貯金1500万円
配偶者居住権の評価方法が法律で決まっていますのでこの例の価格はイメージです)

 

自宅2000万円を、「配偶者居住権」の資産価値1000万円と、「負担付き所有権」の資産価値1000万円に分けることができます。そしてこれを妻Bと子Cで平等に分け合っているため、残りの預貯金についても1:1で分けることができるのです。

 

従来は自宅の価値をひとつの相続財産としていたものが、「住める権利」と「住まわせるという負担の付いた所有権」とに分けて考えることができるようになりました。

 

妻Bからすると、自宅を売るつもりはないので、完全な所有権よりも「住める権利」だけを取得できれば、より多くの預貯金を相続することができます。

そして負担付き所有権を相続した子Cは、妻Bが亡くなった後は、配偶者居住権が消滅し、負担のない所有権を取得することになります。

自身が移り住んでも良いですし、不要であれば売却して現金に換えることができます。

配偶者居住権の設定方法

「配偶者居住権」は、当然に配偶者に与えられる権利ではなく、遺言書によるか、もし遺言書がなければ(あっても配偶者居住権のことが書かれていなければ)、相続人全員が参加して話し合う、遺産分割協議によって取り決めをする必要があります。

さらに、配偶者は相続発生時点で自宅建物に居住していなければなりません。

 

注意点として、配偶者居住権を取得しても、そのことを登記しなければ第三者に対抗することができません。

 

例えば、遺言書で配偶者居住権を取得したようなケースで、登記をする前に他の相続人が相続不動産を売却してしまった場合には、配偶者は不動産の購入者に配偶者居住権があるからあなたにこの不動産を渡せないと主張できなくなります。

 

なお、配偶者居住権は、その名のとおり配偶者の居住権を保護する権利なので、配偶者居住権を相続した配偶者が死亡したら消滅します。

 

また、配偶者居住権は、施行日である2020年4月1日以降に発生した相続に適用されます。

つまり、2020年4月1日前の日付で作成した遺言書や遺産分割協議書に、配偶者居住権のことが記載されていても配偶者居住権は発生しません。

 

配偶者居住権は新しい制度なので、施行されてからでないとはっきりしない部分もありますが、相続のひとつの選択肢として覚えていただき、私どもも、お客様のご事情等に応じて提案させていただければと考えております。

まとめ

  1. 配偶者居住権とは、自宅建物の権利を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」の二つの権利に分けて、別々に相続する仕組み
  2. 配偶者居住権は当然に発生する権利ではなく、
    1. 遺言書または遺産分割協議で取得の対象とされたこと
    2. 配偶者が相続発生時に自宅建物に居住していたこと
    3. 配偶者居住権の登記をすること(第三者対抗要件として)
      以上の条件が必要で、配偶者の死亡により消滅する
  3. 2020年4月1日から適用(それより前の遺言や遺産分割協議はダメ)

 

この記事を書いた人

佐伯知哉(さえきともや)

司法書士さえき事務所の代表司法書士。
主に相続関係の手続き、相続の生前対策(遺言・家族信託など)、不動産の登記、会社法人の登記を中心に業務を行っております。今後はさらに遺産相続問題に先進的に取り組む事務所を目指しています。
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